黒木工吉のフィギュアスケート解説ブログ

フリーライター黒木工吉のフィギュアスケートに関するブログです。最新の技術解説、選手の情報からフィギュアスケートというスポーツ全体まで様々な角度から論じてみます。

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バンクーバーオリンピック女子フィギュアスケート直前企画!安藤美姫、浅田真央、キム・ヨナ選手のメンタリティを解析① 安藤美姫の芸術的な魂







安藤美姫や織田信成を教え、過去に荒川静香を金メダルに、高橋大輔を銀メダルに導いたモロゾフコーチは、「日本人はメンタルが弱いといわれているがそれは違う。日本人ほどメンタルの強い若者はいないという」と、自身の著書である『キス・アンド・クライ』で記した。

しかし、そうはいってもメンタルにはいろいろある。おそらくモロゾフは、日本人は自分に厳しく、どんなときも自分を律することができる、という意味でそういったのかもしれない。だが正直外国出身者の目から日本の若者を見てそう言ってくれるのは、わたしもそれはある種正しいのだろうと思うし、とても嬉しい。

試合に際してのメンタリティというのはごくごく個人的なものだ。いくつかパターンはあるが、モロゾフコーチは選手ごとのメンタルの特性を把握するのが上手く、安藤美姫や織田信成などが試合で充分に力を発揮できるのは、彼の力が大きい。

たとえば安藤美姫は、とても気分にムラがある。持ち前のジャンプの才能で誤魔化されることがあるが、長期的な練習できているかできていないかは、スピンの軸がとれているかとれていないかでわかる。例えば2位に入った2007年の全日本選手権、SP『サムソンとデリラ』FP『カルメン』ともに鬼気迫る名演技を見せたが(個人的には『サムソンとデリラ』がとても好みだ。演技に入る前の表情からして、凛としていてとても美しい』)、スピンの軸は余りとれていなかった。彼女はそのシーズン、前期の世界女王として迎えた。燃え尽き症候群に加え、プライベートでも辛い出来事があったらしく、練習もしっかり積めなかったという。

わたしがしかしその時に安藤美姫の人間性に魅力を感じたのは、そのころの彼女の発言がとても奔放で、自己表現をしようという努力に満ち満ちた、人間らしい至言だったからだ。

彼女は、「なぜ試合をするのかがわからない」といったのだ。

―なぜ試合をするのかと練習中に思ってしまう時があり、その後の練習を続けようと思うのは、いろいろな人からの手紙を読みかえしたり、励ましの声を聞いたりすると頑張ろうと思える。それが今の励みになっている。強さの前に気持ちがしっかりしないといけない。 
(トリノ)オリンピックの後にスケートを辞めたいと思ったけれど、その時とは違う。辞めたいのではなくて、考えてしまう。スケートをやりたいのに体が動かなくなったり、ジャンプもいいし、プログラムもミスなく気持ちよく滑れているはずなのに、文字色終わった後に実感がなかったりしてしまう。「なんでなんだろう」と考えてしまうことが多い。それを改善できれば、良い演技をして笑顔で終わることが出来ると思う。
(2007NHK杯後のインタヴューより)

わたしは率直にいって、彼女はすこし精神衰弱に陥っていると思ったが、これはアスリートの思考というより、芸術家の思考である。わたしが安藤美姫を選手としてだけでなく、ひとりの人間として、そして芸術家として尊敬するようになったのは、このことがひとつの要因だった。

安藤美姫は毎年、シーズンのピークを全日本に持ってきている、と言う。それを証明するかのように、安藤美姫は心配されたその年の全日本選手権で、素晴らしい『カルメン』を演じた。フリーでは浅田真央を凌いで一位であったし、多くの観客は安藤美姫の演技のほうに、より多くの拍手を送ったのではないだろうか。

2008年の全日本選手権、村主章枝選手と安藤美姫選手の衝突事故は、記憶に新しいだろう。今でも心ないファンから両名とも批判されることがあるが、わたしはその場面を生で見ていたが、言うまでもなくああいったことはどちらが悪いというわけではない。ジャンプの軌道に入ってしまった安藤美姫も悪いし、ジャンプに意識が行き過ぎていた村主章枝も悪いと言える。あのとき怪我に動揺して何度も涙をみせた安藤美姫を、頼りないと感じ、叱咤したファンもいたことだろう。

しかしあの事件のショックは、おそらく安藤美姫にとって、相当なものだっと推測される。あの時、安藤美姫はそれまで非常に調子が良かった。あのとき彼女はショートプログラムで三位につけていた。3回転3回転が回転不足に終わり、点数は伸びなかったが、印象としてはわたしは個人的に一位にしてあげてもよいほどの出来だった。

彼女は全日本タイトルから、しばらく遠ざかっていた。2004年に優勝してから、今現在の2009年に至るまで、彼女は優勝を逃している。そういう意味で、悲願であったといってもいい。だからこそ、彼女はジャンプの繊細な感覚が狂って、ひどく落ち込んだことだろう。それでも、すぐに出番がくる。しかもそこで順位を落としてしまえば、世界選手権に派遣されなくなる。彼女の動揺がどれほどのものだったかは、想像に難くない。

それほど彼女はそれまで調子が良かったし、全日本では不運に見舞われることが多いが、代表の座がかかっている試合では比較的しっかりコンディションはつくってくる。現に彼女はGPファイナルや世界選手権への派遣の確率が現在の日本選手のなかで一番高い。

つまり安藤美姫は、自らの意思でピークをもってきたとき、とても強い。精神的に充実している時の世界選手では、必ず良い結果を残している。2007年の世界選手権を制し、2009年は、多くの人の目にノーミスに映る演技を披露して、3位に入った。2008年も怪我がなければ彼女のことだ、2位に入れた可能性すらある。もちろん、そういった仮定の話はここでは意味を為さない。彼女自身も言うように「気分にムラがありすぎてアスリートとしては失格」という意見もあった。しかしここ一番に強いのは彼女だ。アスリートというより、パフォーマーといったほうがいいかもしれない。彼女が惑い、悩み続けるのは、彼女が芸術家だからだ。芸術的な魂ものとアスリート的な魂というのは、相反する性質のものだ。我々からみて、彼女がいつも揺れているように見えているのは、その為だとわたしは思う。芸術家としての自分、アスリートとしての自分、彼女はその間で自分の心のヴァランスを取ろうと、いつも不安定でありながら必死に、闘っている。

【了】

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コメント

昨日買った高橋大輔のミーハーブック。彼もアスリートというよりは、芸術家肌な発言が凄く多くて、意外と(私としては)濃く感じました。

高橋くんは、「自分はアスリートには向いてない」的な事を言っていて、発言内容も、揺れ揺れ。でも、その不安定な様を臆することなく言っているところに好感が持てました。安藤美姫に何だか近しいものを感じました。

ところで、キムヨナのボディバランスってすっごく素敵!ラインも肌も美しいし、素人なりに表現が胸にビシビシ突き刺さってきます。

  • 2010/02/22(月) 21:27:58 |
  • URL |
  • 楊李娃 #-
  • [ 編集 ]

>楊李娃さん
その本、自分もそのうち買います!資料としても、もちろん高橋大輔の美しい筋肉を見たいという意味でも笑

彼も自分という存在に揺れ続けているように見えます。大舞台ではなかなか力を発揮できないタイプでした。
今でも試合では、自分を出し切れていない面もあるのではないですかね??

記事にも書いたとおり、自分は芸術家的な魂とアスリートとしての生理みたいなものは、矛盾しているとおもうんですよ。これ、自分のひとつのテーマであり、フィギュアスケートの面白いとこです。

キム・ヨナ、シュッとしてますよね!キム・ヨナの記事を0:00に、浅田真央の記事を6:00に予約投稿してみました。バンクーバーの時期なんで自分も頑張ってます!


  • 2010/02/22(月) 21:58:16 |
  • URL |
  • 黒木工吉 #NEB76mhQ
  • [ 編集 ]

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