黒木工吉のフィギュアスケート解説ブログ

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バンクーバーオリンピック男子FS終了!エヴァン・ライサチェク金メダル!プルシェンコが銀、高橋大輔は銅!そして一筋縄ではいかない4回転論争

バンクーバーオリンピック男子フィギュアスケートの競技部門が終了した。
結果は1位エヴァン・ライサチェク、2位エフゲニープルシェンコ、3位高橋大輔、というものだった。

メダルを獲得した選手も、届かなかった選手も、皆皆すばらしかった。
わたしは久しぶりに感動して放心し、しばし空を仰いだ。非日常がいつのまにか、訪れていた。

ここで、当ブログをご覧の皆様にわたしは謝らねばなるまい。
私は以前の男子FSの展望を占う記事で、こう書いた。

>プルシェンコの項で抜いたニュースを読む限り、彼はFSで4回転を回避してくるのだそうです。入れないのではなく、おそらく入れられないのです。彼はオリンピックに4回転を準備してきていない。彼のベストスコアは159.60です。それにSPのスコアを足すと、249.9になります。わたしの予想では、おそらく優勝者のFSのスコアは170点前後になってくると思います。故に、254~260くらいが優勝者のスコアと予想されます。そうすると、4回転を入れないライサチェクにはいささか難しいスコアになるでしょう。わたしは事前に評価をAと与えていたように、今もって彼のメダル獲得には懐疑的な視点を持っています。しかしもちろん、勝負は蓋を開けてみないことにはわかりません。

これが結果的に、大間違いであった。
現実に、ライサチェクは4回転抜きで167点という高得点を叩き出し、金メダルを獲得した。総得点は257.67である。優勝者のスコアは当たった。しかし、ライサチェクがそれを成し遂げるということを、わたしは上記の文章ではっきり否定している。

しかしライサチェクは現実に4回転抜きで、自分の持てる武器をしっかり極めて、ミスが許されない状況、前年度のチャンピオンという期待、オリンピックという大舞台、そういったプレッシャーにすべて打ち勝ち、頂点に立った。彼はチャンピオンに相応しい。わたしはオリンピックチャンピオンとして、彼を真摯に讃えたい。

しかし今後、4回転論争というものが過熱してくるだろう。結果として、二年連続世界チャンピオンが4回転なしで、そして今回のオリンピックで再度、4回転ジャンパーは勝てなかった。

ロシアのエフゲニー・プルシェンコはこんなことを試合後に語っている。

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プルシェンコ、怒りの銀=採点基準へ不満隠さず〔五輪・フィギュア〕
(時事通信) 2/19 18:29 コメント数:805件

 勝者ライサチェク、健闘の高橋がいる記者会見場に、しばし遅れてトリノ五輪の王者が加わった。プルシェンコは「勝利を確信していた。エバン(ライサチェク)が僕よりも、そのメダルを必要としていたということだろう。独り占めはできないから」と皮肉を込めた。
 直接的なジャッジ批判はしない。だが、採点に対する不信感はありあり。引き揚げてきた通路では「昔の採点基準なら勝っていた。今のフィギュア界が何を求めているのか、この結果で明白になった。もはや4回転ジャンプに価値はない」−。
 4季ぶりに復帰し、金メダル最有力候補として臨んだ五輪。フリーの最終滑走者は冒頭の4回転−3回転を着氷したが、続く2回転は跳ばなかった。以降のジャンプも乱雑。結局、3連続ジャンプは1度もなかった。
 昨季から4回転など高難度のジャンプは基礎点が上がったが、リスクが大きく安全策が優先される傾向があった。世界選手権優勝者も2年連続で4回転を跳んでいない。今季から回転不足でも見栄えが良ければ減点幅が緩和されるようになったとはいえ、この夜のプルシェンコは、決して良くは見えなかった。
 前回王者は「結果は受け入れる。五輪で(通算)銀2個、金1個なら悪くない。振り返らず前に進む」。その一方で「これが最後になるだろう。分からないが…」と競技者としてはリンクを去る気持ちもある。会見の途中で「もう帰っていいか」と真っ先に席を立った。後味の悪さとしらけた空気の中で、ライサチェクと高橋が座り続けた。
(バンクーバー時事)
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この記事に対して、さまざまな意見があるだろう。

わたしは男子FSを観戦後、ずっとこのことを考えていた。
しかし、いまだ結論は出ない。
いまわたしに分かっているのは、4回転論争というのは、フィギュアスケートの本質にかかわる、そして答えを出すのが大変難解な、そして極めて重要な命題であるということだ。

まずこのプルシェンコの発言を受けて、いくつかの反論があるだろう。
「そんな風に言うのなら、4回転ジャンプをもう一度跳んで、2度跳べば誰も文句の言えない完勝が果たせたではないか」
「そもそもプルシェンコはジャンプのランディングが完璧ではなかったし、しっかりとクリーンにジャンプを降りていたら勝っていたのは彼ではないか」
「そもそもスピン、ステップ、音楽表現、ジャンプ、すべてがフィギュアスケートだ。ジャンプのみを問題にすべきでない」

しかしわたしが考えるに、4回転の是非を問うというのは、そんなに簡単な命題ではない。

以前フランスのブライアン・ジュベールが、4回転は必ずしもプログラムに必要ないと主張するカナダのパトリック・チャンとの4回転論争にて、今回のプルシェンコと同じようなことを、このように語っている。

「もし(チャンが)来シーズン四回転をすれば、自分のプログラムが精神的にも肉体的にもどれほどより難しくなるか、分かることでしょう。(四回転をするのは)難しいのです。4回転1回でさえまったく異なってきます。

ここが、4回転の是非を問う論点で、ひとつ難しいところだ。

4回転というのは、ただそれが成功すれば良いというものではない。
4回転が確実に着氷でき、尚且つその後のプログラムもしっかりこなす体力、精神力が問われているのである。

4回転を冒頭に跳ぶ選手は多い。例えば冒頭に4回転を跳ぶ選手とトリプルアクセルを跳ぶ選手とでは、メンタルの持っていきかたが全く異なる。なぜなら、4回転ジャンパーが現実に大きな大会で勝つためには、冒頭で4回転ジャンプを跳んだあと、すぐさま次の4回転やトリプルアクセルを跳ぶ必要性が非常に高いからだ。

わたしはここがひとつの盲点だと考える。
現実に、優勝したライサチェクは、冒頭のトリプルアクセルートリプルトゥループのコンビネーションを決めた後は、2回目のトリプルアクセルとそのほかの3回転ジャンプのことを考えれば良いのに対し、高橋大輔とプルシェンコは冒頭の4回転を成功したとしても、まだその後2度のトリプルアクセルが残っている。

つまり、最初に述べたように、ただ4回転を跳べばいいという問題ではなく、4回転を跳んだあと更にトリプルアクセルを2度跳ぶ、しかもクリーンに降りる必要がある。そうしなければ、点数上4回転を跳ぶメリットというのは殆どない。なぜなら、4回転を跳ばない選択をした選手の中で、すべてのジャンプをクリーンに跳ぶ選手というのは、大きな試合においては必ず一人は存在するからである。その選手に勝つには、同じくトリプルアクセルをミスするわけにはいかないのである。ここでトリプルアクセルをミスしてしまうと、4回転を入れたアドバンテージは無いものと等しい。

例外的にトリプルアクセルを入れられないランビエールの例もあるが、あれはあくまで例外である。4回転を2度用意しているランビエールを除いたトップレベルの男子にとって、トリプルアクセル2度は必須だ。

つまり、ジュベールの言うように、4回転を入れるプログラムと4回転を入れないプログラムというのは、単に4回転ひとつ分の体力的、精神的負担だけではまったくなく、それとはケタ違いの、まったく別物の大きな負担であるということである。

しかしプルシェンコが言うように、現在のルールでは4回転にそこまでの価値は与えていない。
基礎点を比較すれば、そのことは顕著に分かる。
ライサチェクのジャンプの構成の基礎点は、58.23点。
プルシェンコのジャンプの構成の基礎点は、59.33点。
高橋大輔のジャンプの構成の基礎点は、60.38点。(実際には冒頭の4回転がダウングレードで3回転判定になってしまったので、-5.8で54.58)。

ということで、特に大きな得点の違いはない。ライサチェクはまったく取りこぼさず、4回転を抜いた演技ではほぼ完璧な基礎点であるといえるだろう。それに対して、プルシェンコと高橋大輔は、ちょこちょこ取りこぼしてしまった。

しかし現実にプルシェンコは4回転を降り、トリプルアクセルを2度降りた。確かに上出来なジャンプとは言えなかった。それでも上で抜いた点数は出来栄えを表すGOEを省いた基礎点の部分のみなので、ジャンプの出来は関係ない。つまり4回転を降りたアドバンテージというのは、他のジャンプも4回転を抜いたプログラムと同じくらい一分の隙もなく高難度で決めなければ、完全に消えてしまうような性質のものなのだ。

つまり、冒頭でプルシェンコが言った、「今のフィギュア界が何を求めているのか、この結果で明白になった。もはや4回転ジャンプに価値はない」というのはそういう意味だ。

4回転ジャンパーにとって、現行のルールは、それを跳ばない選手に比べて何倍も厳しいものである。
わたしがすこしこの問題でもやもやしたものを抱えてしまうのは、結局のところルールの問題だ。

優勝したエヴァン・ライサチェクにはひとつの非もないし、彼は責められるべきではない。
彼はアスリートとして成すべきことを完璧に成し遂げ、それにふさわしい結果を勝ち取っただけだし、それは掛け値なく素晴らしいことだ。それはここで、強く主張したい。

そもそも彼は、けして安全策をとって消極的に4回転を回避したとは、言いきれないからだ。それも4回転論争の、また別の難しい点である。

【つづきはまた次回】

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